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金沢家庭裁判所 昭和39年(少)617号 決定

少年 S・T子(昭二四・一一・二九生)

主文

本件を石川県中央児童相談所長に送致する。

同所長は送致の日から六ヵ月内に限り少年を国立教護院きぬ川学院に収容して少年の行動の自由を制限し、又はその行動の自由を奪う措置をとることができる。

理由

(非行事実)

少年は、A子と共謀のうえ、

(一)  昭和三九年五月○○日午前七時三〇分頃から同九時頃までの間において、羽昨市○○町テの○○番地スパーマーケット○田○子(二九歳)方店舗において、同人が管理しているアンネのナプキン二箱(時価一八〇円相当)、チリ紙一束(時価二〇円)を窃取し、

(二)  同日同時頃、同市同町エ○○○番地衣料品商○本○子(六三歳)方店舗において、同人が管理しているハンカチ二枚(時価八〇円相当)を窃取し、

(三)  同日同時頃、同市△△町コ○○番地○詰デパートこと○村○子(三九歳)方店舗において同人が管理しているシュミーズ二枚(時価一、〇七〇円相当)を窃取し、

(四)  同日同時頃、同市××町フ○○番地衣料品商○田○子(二六歳)方店舗において、同人が管理している女物パンティ三枚、タオル二本(時価合計七九八円相当)を窃取し

たものである。

(なお、昭和三九年少第六一七号ぐ犯保護事件の非行事実は処遇理由中に記載するから非行事実として摘示しない)

(罰条)

刑法二三五条、六〇条

(処遇理由)

本件非行中、昭和三九年少第六一七号事件はぐ犯事件として石川県中央児童相談所長から少年に対して少年法一八条二項の措置を求めて当裁判所に送致されてきたものである。

しかして少年の胎児のときに父が死亡し、その後母に育てられてきたのであるが、その間、母の再婚、離婚によつて母の再婚先と実家の間を転々として成長した。母は二回も再婚しているが、いずれも少年と、母が結婚した夫との間がうまくいかなかつたので、母は二回とも離婚せざるを得なかつたものである。

昭和三八年六月少年は母とともに母の再婚先である京都から金沢にきて住居地で住むようになり、金沢市内の中学校に転校したけれども成績は不振であり、怠学が非常に多かつたことが認められる。

そして昭和三九年三月二七日から同年四月八日までの間、母の所持金三、八〇〇円位を持ち出して京都へ家出し、二人の男性と不純異性交遊にふけり、また同年五月三日頃に京都で知り合つた男性を金沢に呼び出し、金沢市内のホテルで不純異性交遊にふけつていた。そして更に同月一一日には母の勤務先から三、〇〇〇円を母に無断で借りて再び京都に家出し、同所の警察で保護されて同月一四日に母とともに石川県中央児童相談所にきて同所において最終の処遇を決めるまで一時保護されていたのである。しかしその一時保護中のわずか一〇日間の間に三回も無断外出し、そしてその外出中に本件の昭和三九年少第六八四号事件の非行をなしたのである。

少年は、はげしい感情家であつて、感情の赴くままに行動する傾向があり、自己中心的で孤独的傾向が強く、現実を冷静に見つめようとしない。そして年齢的にまだきわめて幼いにもかかわらず異性に対する関心が非常に強く、異性と関係することを何とも思つておらず、性に対する考え方は全くルーズである。

また母は保護能力が乏しく、少年の監護についてはあまり多くを期待できない。

このように少年は自己の徳性を著しく害する性癖を有しており、その性格環境を考慮すると更に転落する可能性があり、将来罪を犯すおそれは十分認められる。

ところで、昭和三九年少第六八四号事件は検察官から当裁判所に送致されてきたものである。しかして本件のように児童相談所からの少年法六条三項による送致と検察官からの送致が競合する場合において本件のように前者の送致事実には前記のようにぐ犯事実を認定できるので、当裁判所としては両事件を併合のうえ、少年に対して少年法一八条二項の決定、その他不開始、不処分の決定、同法二四条一項に定める保護処分決定等検察官送致決定を除いたどのような決定をもなし得ることはいうまでもない。

しかして、少年はまだ年齢的にも若く(一四歳八ヵ月)、勉学途上にある中学生である。そしてぐ犯行為は相当顕著であるが、犯罪的傾向はそれほど進んでいないことが認められるので、直ちに保護処分決定(少年院送致の決定)をもつてのぞむよりは、児童福祉法の措置に委ねることがよりよい処遇方法であると思料する。そしてそのもとにおいて、少年に対して娘らしい素直さを身につけさせ、勉強、勤労の意欲をつけさせ、現実を冷静に見つめさせるようにし、純潔の大切なことを教える等過去の不良な生活態度の改善を図ることが相当である。

しかし、少年の性格、非行歴を考慮すると通常の教護院に収容するような手段、その他児童相談所長がその権限内でできる措置のみに委ねるときは逃走をくりかえして罪を犯すおそれが十分にあると認められるので、少年の保護のために児童相談所長に対して強制措置をとることのできる国立教護院きぬ川学院に少年を収容して少年の行動の自由を制限し若くはその自由を奪う措置をとらせることが必要であると認める。そしてこの期間は送致の日から六ヵ月以内の期間とすることが相当である。

よつて少年法一八条二項、少年審判規則二三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋爽一郎)

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